待ちに待った不妊治療の保険適用化
高額とされていた不妊治療が保険適用に至った社会的背景には、「晩婚化」、「出産年齢の上昇」、「不妊治療件数の増加」、「社会的要因(仕事と不妊治療の両立)」、そして「経済的要因(費用負担大)」といった5つの要因があります。
まずは、女性の社会進出とともに、晩婚化が進み、結婚したとしても子どもを授かるのはもう少し先でいいといった出産年齢の上昇は、少子化をはじめとした社会問題にもなっています。どうしても女性は年齢と共に妊娠するための力が低下するため、晩婚化や出産年齢の上昇は少子化の一因ともなっています。
また、晩婚化や出産年齢の上昇が影響し、不妊治療を受ける人が増加。当時は珍しかった体外受精も普通に行われるようになり、生殖補助医療で出生した新生児数も増加傾向にあります。さらに、不妊治療自体は普及してきたものの、仕事との両立が難しいといった社会的要因にくわえ、高額な治療費が経済的負担となってきたのです。
このような状況を打破すべく、2004年にはじまったのが不妊に悩む方への特定治療支援事業。この制度を利用することで、以前よりは経済的負担は軽減したものの、まだまだ費用が高額で不妊治療を諦める夫婦も少なくないのが実情でしょう。そんななか、待ちに待った不妊治療の保険適用化がスタートしたのです。
では、保険適用の2つのメリットをご紹介します。1つ目は、経済的負担の軽減で、治療費の負担が原則3割となった点です。2つ目は、不妊治療へのハードルが下がったことでしょう。結果、出産を前向きに考える方たちが増えたのも大きなメリットでしょう。
保険適用でどのくらい安くなるの?
特定不妊治療が保険適用されたことで、患者の治療費負担額は3割となりました。これまでの3分の1の価格で不妊治療が受けられるため、不妊治療に乗り出そうというご夫婦も増えています。では、具体的に保険適用でどのぐらいやすくなるのか、人工授精と体外受精を例にとって考えてみましょう。
人工授精で保険適用を受ける際の比較
人工授精は、洗浄および濃縮した夫の精子を妻の排卵時期に合わせて、子宮内に注入する不妊治療法です。自然妊娠では、膣内に精子が入るのに対し、人工授精はその奥の子宮内に入るという点を除けば、自然妊娠と近い治療法といえるでしょう。
このように身体への負担が少なく比較的安価に受けられる人工授精をする際の費用を、自費診療と保険適用で比較してご紹介します。
自費診療で、1回人工授精をする際の合計額は約5万円程度。内訳も合わせてご確認ください。
- 診察、検査、薬代/約3万円
- 人工授精1回/2万円
続いて、3割負担の保険適用の場合の合計額は約15,710円程度、内訳もご紹介します。
- 一般不妊管理料/750円
- 診察、検査、薬代/約9,500円
- 人工授精1回/5,460円
費用負担が少なめの人工授精でも、保険適応することで3万円以上も安くなります。
※上記金額は、あくまでも参考例であり、すべての治療が同額であるとは限りません。正確な金額は、各クリニックに確認ください。
体外受精で保険適用を受ける際の比較
体外受精は、採卵(卵巣から卵子を取り出す)と胚移植(精子と受精させて培養し、受精卵を胚まで発育させてから子宮に戻す)の2ステップで行われます。
受精卵を着床直前まで成長させ、受精卵(胚)として子宮内に注入することで、妊娠率が高いのがメリットですが、人工授精よりも高額なのがデメリットでしょう。では、体外受精を行った際の費用の比較をしていきましょう。
体外受精のモデルケース
卵子を10個採卵
内5個は培養し体外受精に使用、残り5個は胚凍結。凍結した胚は、別の周期で融解し移植を実施。
上記の条件で、体外受精を自費診療で受けると総費用は約72万7,200円。参考までに内訳をみておきましょう。
各ステージは、治療内容によって規定されています。このステージ分類は全国共通のものです。
また、助成を受けられる回数にも上限があります。1回目の助成を受けたときの治療開始日における妻の年齢が39歳以下の場合、助成を受けられる上限は6回です。しかし、妻が40歳以上42歳以下だった場合は3回と半減します。
2.男性不妊の治療で助成されるのは、精巣内精子生検採取法など指定された治療法(手術・精子凍結)に限られます。また、医療保険が適用される治療については対象外です。
金額は治療1回につき15万円までで、特定不妊治療が終了した年度の前年度以降の治療を対象として助成されます。ただし、特定不妊治療の過程にあるものとされているため、男性不妊治療だけでの申請は認められません。同時に申請する特定不妊治療が助成されることが前提です。
これらの制度は、必要に応じて改正されることがあります。したがって、最新の情報をチェックすることが大切です。
採卵
- 診察、検査、薬代/約7万円
- 採卵10個/20万2,400円
- 受精(コンベンショナルIVF)/7万4,800円
- 培養(胚盤胞5個まで)/7万5,900円
- 胚凍結5個/13万7,500円
移植
- 診察、検査、薬代/約5万円
- アシステッドハッチング/1万9,800円
- 受凍結融解移植/9万6,800円
一方、保険適用の場合の総費用は、約19万3,100円であり、実に50万円以上も安くなる計算です。
※上記金額は、あくまでも参考例です。正確な金額は、各クリニックにご確認ください。
不妊治療の保険適用の条件は?
不妊治療を保険適用で利用する条件は、対象年齢、保険適用回数、婚姻関係の確認の3つあります。以下で確認していきましょう。
対象年齢の分かれ目は妻の年齢:43歳
まず1つ目は、はじめての治療開始時の妻の年齢が43歳未満であることです。女性は、年齢を重ねるほど妊娠しづらくなるため、43歳未満というボーダーラインが引かれているのです。ちなみに、男性に関しては、年齢制限はありません。妻の年齢のボーダーラインがあるため、不妊治療を検討していている方で42歳の方などは、早急に不妊治療を検討する必要があるでしょう。
治療開始時の年齢で変わる保険適用回数
2つ目は、保険適用を受けられる回数の制限です。こちらも、はじめての不妊治療を受ける際の妻の年齢によって2パターンに分かれます。以下をご覧ください。 ・40歳未満:1子ごとに通算胚移植6回まで ・40歳以上43歳未満:1子ごとに通算胚移植3回まで また、保険適用は1子ごとなので、一度不妊治療において保険適用を受けたとしても、別の兄弟などに適用したいといった場合、申請も可能です。あくまでも、胚移植の回数で計算することから、過去の不妊治療実績や助成金利用実績などの影響はうけません。 つまり、少しでも若いうちに不妊治療を始めた方が、胚移植できるチャンスが多いことが分かります。
法律婚と事実婚の確認
3つ目は婚姻関係の確認です。婚姻関係も多様化してきているため、以下のいずれかに該当しており、その事実を証明できる書類などを提出することで、保険適用してもらうことができます。
- 法的婚姻関係にあること
- 事実婚であること
なお、婚姻関係を証明する必要書類はクリニックによって異なることもあるため、事前に確認することをおすすめします。